アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

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イメージとはかけ離れた一面も 住んで知ったスイスの日常

日本人が持つスイスのイメージってなんだろう。

永世中立国。
アルプスの山々。
ハイジ。
ヨーデル。
牛。

なんとものどかで汚れのないイメージ。

私がスイスに住んでいたと言うとほとんどの人が景色が綺麗そう。さぞかし良い国なんでしょうと言ってくれる。

そして実際に旅行したことがあるという人に会うことも少なくない。
日本から遠いし小さい国だが人気があるようだ。

実際にマッターホルンのある名高い観光地ツェルマットに行ったとき、妊婦だった私がぜーぜーと肩で息をしながら山を登っていると、驚くことにすれ違う登山者のほとんどは日本人。
頂上につくとおそらく登山電車で登ってきたであろう日本人のツアー観光客が山ほどいて仰天した。


彼らが観光地だけを数ヶ所立ち寄るツアーに参加しているとしたら見ていないのかもしれない。

スイスの街の日常を。



スイスの日常というと、ハイジの生活を想像する人がいるかもしれない。
山小屋で毎日パンと溶かしたチーズを食べ、ヤギを飼い、クララが立つ。
ハイジの舞台になった村を訪れたことがあるが、駅を降りてからハイジの家にたどり着くまでヤギと牛しか見なかった。


そして、クララはいなかったがハイジとペーターに会えた。

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実際の写真。
部屋に入った途端いきなりの2人の登場に心臓止まるかと思った。


今でもこれと大差ない生活をしている人も小さな村にはいるかもしれないが、私の住んでいた町はこのハイジ村に比べたら都会だった。
とはいっても大都会東京の足元にも及ばないが。
いや、都会が偉いとも思ってないが。



そんな綺麗な湖があること以外にあまり特筆することもない町に住んでいたが、とてもありがたいことに、それでも日本からスイスにいる私を訪ねてきてくれる友達が何人かいた。
観光がてら町の中心地に散歩に出かけると、彼らが決まって驚くことがあった。


それは町の広場にたむろする麻薬中毒者。
東京にもホームレスはいるが、町の中心にある広場で真っ昼間から明らかにキマっている人たちの集団を目にすることはない。
私もスイスで初めて彼らを見たときは衝撃を受けた。
スイスの観光客用の表向きなイメージとはあまりにかけ離れている。


そして、そんな彼らはこちらから働きかけない限り私みたいなお金もなさそうなアジア人女性には特に近寄ってこないと学習したある日、
(この時は私がのちに彼らと絡む日が訪れるなんて夢にも思わなかった。つまり訪れてしまったのだが詳細はまた次回に。)
いつもの広場の隣を通ると、そこには一台の小さなバスが。
そしてそれに列をなすのは麻薬中毒者たち。
一緒にいた連れに聞くと、そのバスで新品の注射器を配っているのだという。

私の麻薬に関する知識は乏しいので詳しいことはわからないが、注射器の使いまわしによる病気の蔓延を防ぐために、せめて麻薬摂取のために新しい注射器を使ってくれということらしい。
つまり麻薬を容認しているということなのか。


『ダメ、ゼッタイ』

それを聞かされて育った私は、スイスの社会が麻薬を容認することに強い違和感を感じた。
でも、やるなと言われても止められない。
だったら二次被害だけでも減らさなければという考えだろう。

後々わかったことだが町の公衆トイレにはよく注射器専用のゴミ箱が設置されている。
これもその辺に投げ捨てられるよりは、ということだろう。


私がちょっと驚いたのは、この広場はそんな中毒者がたむろしているが、そうではない一般人もたくさんいること。
怖がったり気持ち悪がったりして誰も近づかないというわけではない。
確かにそんなに彼らに近づきたいとは思わないが、子供もいるし、よく待ち合わせに使われたりもしている。


あるとき広場の近くを通ると中毒者らしき青年から
「すいません、タバコくださぃ」
なんて声をかけられたこともあった。
持っていないと伝えると、
「タバコです。普通のタバコでいいんです(マリファナでなくて)」
と言われた。

それもないと伝えて立ち去ったが、フラフラで辛うじて立っている状態だった青年が気になり振り返ると、彼は重心を後ろに持っていかれ、ゾンビのように両腕を前にだしながら一人で後ずさりしていた。



またあるとき近くのレストランのテラスでビールを飲んでいると、隣の席にいた小綺麗な恰好をした中年の男性にお金を貰いにきた麻薬中毒者の若い女性がいた。
このおじさん、何者なのかは知らないが、彼女に小銭を渡したあと、白い長髪をなびかせながらこう言った。

「あなた、人生変えたくない?」



なんか、小説の世界に迷い込んでしまったような気分になった。