先日からフランス人とラーメンとの関わり方についてお送りしているが、今日は『特別注文編』
フランス人のラーメンに対する姿勢① ワーホリのおもひで - アルプスから高尾山
フランス人のラーメンに対する姿勢② ラーメンの概念を覆してくるフランス人 - アルプスから高尾山
日本ではラーメン屋で◯◯抜きを頼むとしたらネギ嫌いな人がネギ抜きを注文するくらいしか思い浮かばない私。
前回、パリのラーメン屋で働いていたときにラーメンの麺抜きを頼む人がいる話をしたが、それ以外にも注文がカスタマイズされることが度々ある。
シャーシュー抜き
チャーシューが豚肉であることを知ると抜いてくれという人が結構いた。
宗教的な理由で豚肉を食べない人は、この店のラーメンのスープには豚が使われているためそもそもラーメンを食べることができない。
ここでチャーシュー抜きを頼む人々は豚肉の塊は好きではないので食べないが、出汁やスープに使われているだけなら問題ないとする人々。
特に若い女性で豚肉を食べないという人が多かったように思う。
麺以外全部抜き
ラーメンの麺抜きの注文があまりに頻繁なので慣れてしまったころ、ついに現れた。
麺だけくれという客が。
中年の女性とその娘と孫と思われる男の子の3世代の3人組だった。
茹でたラーメンの麺だけ食べてもソース無しパスタより塩気もないし美味しいと思えないと思うがよいのかと確認するが、それでいいのだと言う。
理由は彼女らの連れてきた男の子はベジタリアンだからと言う。
そして麺だけだろうが価格も通常のラーメンと同じ額になると説明するが、それでも茹でた麺だけがほしいと言う。
そこまでしてラーメンの麺を食べずとも他に肉を使っていない美味しいものが山ほどあると個人的には思うのだが。
厨房で働く日本人スタッフに受けたまんまの注文を伝える。
彼の返事は「は?」だった。
はい、それが自然な返事ですよね。
何度も説明し確認しましたが麺だけでいいと言うのです。
その次の返事は「くっつくよ」だった。
それは説明していなかったので客に確認しに行くと、それでも良いと言う。
そして茹でた麺だけがのった皿を恐る恐る客に出した。
女性たちは「これよこれ。メルシーボークー」と喜んで茹でた麺を受け取った。
食べる様子が気になって、いけないことと思いつつも野次馬したくて不自然に何度かテーブルの横を往復した。
ナイフとフォークを使って麺を切り分けて食べていた。
醤油か何かをかけていたかどうかまでは残念ながら記憶にない。
一方で私が今だにはっきりと覚えていること、それは彼女らが私を呼び止めて言ったひとこと。
客「すいません」
私「はい、何でしょうか。」
(まずいって言われてもこっちに責任はないからね…)
客「これと同じのもうひとつください」
私「ま、まったく同じものですか?」
まさかのおかわりだった。
ちなみに私が麺だけの注文を受けたのはこの人たちが最初で最後となった。
ということでこれに関しては例外編。
前菜はアリの方向で
◯◯抜きも多いが、それと比にならないほどフランス人客の多くが口にする言葉、それが『entrée (アントレ)』=前菜
いや、ラーメン屋に前菜も何もないでしょ。
そんな心配はご無用。
彼らの手にかかれば何だって前菜に変身する。
「えっとぉ、まず餃子をアントレで。メインは味噌ラーメンください」
このように多くの人は餃子を前菜にしたがる。
前菜なので食事の最初に出すべきなのだが、ここはその当時は超の付く人気店。
混む時間帯は餃子がバンバン出るので焼き続けていて、焼きあがったものからどんどん注文した客のテーブルに運ばれてゆく。
基本はフランス人に合わせて餃子を早めに出すようにしていたが、たまに餃子が出た直後にラーメンが出来上がってしまったりすることもあった。
客もアジアの店ということでそんなに気にしない様子だったり、ちょっと不本意な表情は浮かべてもわざわざ文句を口にする人は少なかった。
それでもたまに餃子よりラーメンが早く出てしまったがために憤る客もいた。
私個人としては大皿料理を取り分けてちょっとずつ食べるスタイルが好きだし、居酒屋などでいろいろなものを一度にテーブルに並べてつまむのも好き。
なのではじめの頃はフランス人がここまで一皿ずつ順番に食事を進めていくことにこだわることに驚いた。
そして、たまーに餃子の注文が多過ぎて間に合わず、客を待たせてしまうこともあった。
30分近く待たされた客は当然あからさまに不満な態度を見せる。
「私たちの注文を忘れてはいませんよね? もう30分近く待っているんだけど」
彼らが尋ねたのは、たまたま通りかかった中年の中国人女性の従業員。
彼女は客に答える。
「C'est normal. = それは普通のことです」
いや、全然普通じゃないんだけど彼女はたじろがない。
「すいません」とかそう簡単に言わない。
そんな強気な態度にさすがのフランス人客も返す言葉が出ない。
恐るべし中国人のおばちゃん。
打たれ弱い私は彼女のブレない立ち振る舞いに何度も励まされ勇気づけられた。
一生会うことはないだろうし、私のことなんて忘れてるだろうが私はあなたを忘れない。