アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

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アジア人は若く見られるという噂

いつからだろう。
初対面の人に年齢を聞かれて、
「何歳に見える?」と聞き返さなくなったのは。

答えは初対面の人にあまり年齢を聞かれなくなってから。つまり7、8年前だろうか。

そう、思い返せば20代前半の頃はよく他人に年齢を聞かれた。
会社の飲み会に居合わせた隣の部署の上司や先輩にも聞かれた覚えがあるし、友達に誘われて行ったホームパーティーで出会った人々とも自己紹介がてら年齢の話もした。
そして今思い出すと自意識過剰で気持ちが悪いが、年齢を聞かれるとよく、
「いくつに見えますか!?」
などと聞き返していた。The 若気の至り。
そして気づいたら年齢を聞いてくる人はほとんどいなくなった。
たまに聞いてくるのは子供の関係で知り合うママ友くらい。
きっと私はもう「年齢を聞きにくい年齢」だと思われているか、あるいは私の知り合う人も「他人の年齢に興味がない人たち」になったのかもと推測する。
私自身は「たまに興味があるけど興味ないふりしたい」グループに所属。

alpestakao.hatenablog.com


年齢はあまり気にしない印象のヨーロッパ人

私の旦那は彼の友達や仕事仲間の年齢をあまり知らない。

彼が思うに日本人の方が年齢を気にするのは礼儀を重んじるからではないかと言っていた。
確かに日本では自分より年上の相手には敬語を使うのが普通。
フランス語でも敬語にあたるものは存在するが、相手が“同年代”と見なせば年長者でもタメ語だし、20歳くらい年上そうな相手でも初対面でもタメ語でOKなこともあるらしい。
旦那曰くその判断基準は『雰囲気』だそう。

スイスで彼の地元の友達たちに会うときも、みんな同級生のように仲良く話して小突きあっているが、実は10歳近く年が離れている友人もいたりする。
日本では10歳も離れたらどうしても先輩後輩のような間柄になりがちなように思う。

このように我々日本人より年齢に執着していなさそうなヨーロッパ人。
そんな彼らにも年齢を気にせざるを得ないときがある。


ドイツの奇跡

私が初めてヨーロッパに住んだのは二十代後半。
フランスのパリにワーホリビザで1年間滞在した。
引っ越して間もなく、ヨーロッパ在住の日本人の友達を訪ねてドイツへ旅行したときのこと。
私たちは屋台でホットワインを買うことにした。
友達がお姉さんにちょっと緊張気味にドイツ語で話しかけた。

友達「ホットワインを2杯ください」

お姉さん「えっと、これ私も仕事だから聞かなきゃいけないんだけど、あなたたち何歳かしらぁ?」

友達「え。27歳ですけど」

お姉さん「あ!そうなのね。OK、OK、うふふ」

お姉さんは年齢を聞いてしまったことをちょっと恥ずかしそうにしていたが、聞かれた我々は人生でもう二度と経験できないと思っていた『年齢確認』をされ、その嬉しさに狂喜乱舞した。
当時の詳しいドイツの法律は知らないが、おそらく17歳以下に見られたようだ。
やはりアジア人が若く見えるという噂には信憑性あり。

スーパーの敵

ドイツでの一件から5年の月日が流れ、私は既婚者となりスイスに移住した。
その後、妊娠と出産を経て母親になった。
そしてあっという間に気づけば33歳。仕事も復帰し授乳生活も落ち着いてきた。

待ちに待ったビール解禁。


一人スキップしながらスーパーにビールを買いに行きセルフレジで支払いをしようとすると、年齢確認商品を購入したためスタッフが参りますとの表示が。
ルンルンでスタッフを待っていると、真っ赤なショートカットのおばちゃん(50代くらい)が現れる。
普段ならスタッフが私の顔を一瞥しレジの機械にカードをかざして無事清算が終了するのだが、今日のこのおばちゃん、なんだか私を睨みつけている。
私は彼女の方に顔を向け、33年の歴史が刻まれた顔を見せるがおばちゃんはカードを機械に近づけようとしない。


まさか。
緊張が走る。


おばちゃん「すいませんが身分証明書を提示してください」


私(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!)


可笑しくてニヤニヤするのを堪えながら財布から身分証明書を取り出しておばちゃんに見せた。

おばちゃん「えっと…あらま!…メルシー」

狐に化かされたような顔をしながらカードをかざしてくれた。
20代後半で年齢を聞かれたときは喜んだのに、30過ぎて聞かれると私の方こそ狐に化かされたような気持ちになった。
スイスは16歳からビールとワインが買える(つまり飲める)ので、おばちゃんは私が15歳以下だと判断したということ。実年齢の半分以下だ。
ちなみに私は童顔と言われたことは人生で一度もない。
おばちゃん、視力を調べた方がいいんじゃないか。


帰宅して旦那に速攻この話をしたのは言うまでもない。


このスーパーは我が家の最寄りなので週に2、3回は買い物に行く。
そして数日後、またセルフレジに赤いおばちゃんがいた。
前回から1週間ちょっとしか経っていなかったので私のことを覚えているはず。
同じようにビールを買い、おばちゃんを待つ。

私「ボンジュール、マダム」

おばちゃん「ボンジュール…
うーん…すみませんが身分証明書を見せてください」


私(オカワリキタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!)
「…はい、どうぞ。
(おばちゃん…マジなのか…)」

おばちゃん「どれどれ……えぇっ!…あ、そうなの!…メルシー」


いやいやいや。
デジャブってこれのことを言うのだろうか。
真っ赤に染めたショートヘア、しかも前回同様にポルトガル語訛りだったからどう考えても同じ人だよな。
このおばちゃん視力か、はたまた頭か、しつこいが本当に調べた方がいいんじゃないか。


我ながら信じがたい話なのは、この後も何度かレジでこのおばちゃんに遭遇し、おばちゃんは私に身分証明書の提示を少なくとも5回は尋ねたこと。
おばちゃんは私が子供を連れて行ったときだけは何も聞かずにカードを機械にかざした。
そして最後の方は私もおばちゃんのコントに付き合うのに疲れていた。


まとめ

私の実体験によると多くのアジア人は実年齢より若く見られるというのはどうやら本当。
そしてアジア人はみんな同じように見えて見分けがついていない人が本当にいる。
(そんな予感はしていたが、そのレベルは予想を遥かに超えてエグい。)

同様に我々にとって他の人種は見分けがつきにくいことがあるのも事実。
私もおばちゃんが赤い髪でなければ同じ人だと気づかなかったのかもしれない。


いや、待てよ。

もしかしたら見分けがついていなかったのはおばちゃんではなく私の方で、実は私は毎回違う赤毛のショートカットのおばちゃんに遭遇していたのかもしれない。
そう思い始めたら怖くなってきた。
ストーリー展開がまるで『世にも奇妙な物語』じゃないか。



赤い髪のおばちゃんは時空を越えて私を悩ませる。