アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

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美容院の葛藤

2人の暴れまわる息子がいる我が家は常に散らかり放題。そのため頻繁に掃除機をかけなければいけない。
これは多少の埃には目をつむりがちな私のようなズボラ主婦にとっては、結果的にありがたいことと思うことにしている。
掃除機をかける目的は主に子供たちが食べ散らかし床に落ちたものをキレイにすることなのだが、その際やたら目につくのがあちこちに落ちている私の髪の毛。


ああ。
髪を切りに行きたい。


7ヶ月前に美容院で胸の下まであったロングヘアをショートカットにした。
その後一度も美容院に行けてない。
メンテナンスしていないショートはイケてない。
一ヶ月ほど前、耐えきれずに自分で襟足の髪を5cmほど切ったら頭が三角形になった。
東京のどこかで黒い三角形が歩いているのを見かけたらそれは私かもしれない。

自慢じゃないけど

私が唯一これは他人に負けないと自信を持っているもの、それは髪の毛の量である。
太い、硬い、うねる、という三重苦を背負っているのに、スイスにいたころはやたらこの髪質をうらやましがってくる猫っ毛スイス人女子たちがいた。

「あなた、髪が多くていいわね。コシもあるし」

そういわれるたびに私はあなたのような猫っ毛が羨ましいわと返していた。
私は物心ついた頃から髪が多かった。
美容院に行って美容師から言われなかったことがない。
「髪の毛多いですね」と。

あるときは「今まで出会った中でお客様の髪の多さは5本の指に入ります」と願わずもランクインした。
そしてまたあるときは「髪の毛多いねぇ〜。お父さんはヤマアラシ⁈」と客との距離感を掴むのが苦手な美容師に笑えない冗談を言われた。

人生は似合う髪型探しの旅

前回は久しぶりの日本の、しかも初めての土地での美容院に緊張していたが、美容師の男性は気さくで控えめでとても好感が持てた。
ヤマアラシの人とは対照的。
私がショートカットにしたいと告げると、彼は笑えない冗談を言う代わりに小声で「ツーブロックにしてもいいですか?」と言った。

つまりそういうことなのだ。

髪の毛が多すぎてショートヘアの収まりがつかないので、思い切ってベリーショートにするか、しないなら内側を刈って上から髪をのせるのが最良の方法となるらしい。
案ずることなかれ、美容師さん。
私がツーブロックを提案されたのは初めてではありません。

「はい、お任せします」
私はそう答え、手元の雑誌に目をやった。
そこには私の髪質じゃ到底できないようなふわふわパーマのロングヘアの女性がいた。
パーマは若い頃に何度かトライしたが、あまりフェミニンな雰囲気にはならず、ただ雰囲気だけで言うなら欧陽菲菲にはなれた。

この毛量を携えて生きるには多少の諦めが必要である。
ファッションに興味を持ちはじめた中学生のころは、雑誌の中で気に入った髪型のモデルの切り抜きを握りしめて美容院に行った。
自分の髪の量や硬さは自覚していたが、憧れは『外国人風くせ毛ショート』。
工夫すればちょっと寄せれるはずと、どこか夢を捨てきれない自分がいた。
そのせいで何人の美容師を悩ませただろう。
「お客様の髪質でこのヘアースタイルは難しいと思います」と言いにくそうに伝えてくれた美容師もいた。
「仕上がりは多少変わりますがよろしいですか」
そんなことも何度も言われた。

中学3年のとき、懲りずにハーフモデルの切り抜きを握りしめて美容師に行き、不可解な不揃いザンギリ頭になる。
切った直後は「これでいいんだ。これが個性だ」と謎に自分に言い聞かせていたが、誰がどう見たっておかしい髪型だったことに気づいたのは、出来上がった卒業アルバムに載った自分の写真を見たときだった。
それ以降、私は『外国人風』を封印することを心に決めた。

『◯◯さんみたいな髪型にしたい』が言えない

先日、テレビを見ていたらたまたま出ていた小松菜奈という女優がとても素敵なショートカットをしていた。
髪が切りたい私は「これだ!」と心の中で叫んだ。
しかし美容院で自分より10歳以上も若い女優の名前を出すのは何となく気が引ける。
若作りしたいアラフォーとか思われたらシャクだ。
他にショートカットがトレードマークの有名人いるかな。

すぐに思いついたのは芸能界の女帝、和田アキ子だった。
ショートにはしたいけど和田アキ子のショートは好みではない。
それ以前に彼女やたら髪がツヤツヤでサラサラだから私の髪じゃ無理。
その次に思いついたのが片桐はいり
2人とも小松菜奈からのギャップがすごいのは置いといて、誰かの名前を出すと(この人、その人みたいになりたいんだな)と思われるような気がして恥ずかしい。
小松菜奈の髪型にしたいけど私は小松菜奈になりたいわけではない。
いや、なれるもんならなりたいけど、なれないことは分かっている。
とりあえず三角形が普通のショートカットになれば小松菜奈にはならなくとも今よりマシな母さんになるはず。

ちなみにこんな母さんから生まれた長男の髪質は私のに似ている。
まだ3歳なので質感はサラサラだが硬くて量も多い。
ただ色が茶色いのでボサボサでも気にならない。
次男は髪があまり生えていない状態なのでまだ何とも言えない。
もし長男がこのままずっと私のような髪質で成長して、『外国人風』のヘアスタイルを注文したらどうなるのだろうか。
髪がどうなろうが顔が外国人風なら外国人風に見えるのだろうか。
いや、そんなことより次男の髪が無事に生えるのかが心配だ。
今のところ左耳の後ろの毛だけがくらげの触手のように伸びつづけている。


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