アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

MENU

国際結婚あるある 日本語が出てこない

私と旦那は息子達のために家の中ではフランス語で会話することにしている。
スイスにいたころは基本的に日本語で会話をしていた。

スイスではいくら夫婦間の会話が日本語とはいえ必然的にフランス語で話す機会が増え、その当時は仕事もしていたので尚更のこと日中の頭はフランス語モードだった。
また日本人の仲の良い友人たちがいたが、彼女達とはもちろん日本語で会話した。
そして私たちはみんな同じ問題を抱えていた。
それは『日本語の単語が出てこない』ということ。


こんなことを言うと世間の人に「ちょっと数年だけ海外に住んだだけでなにカブれちゃってんの」と思われるかもしれない。そんな批判を両手広げて受け止めたって出てこないものは出てこない。
加齢による記憶力の低下も手伝っているとは思うが、要因はそれだけではなさそう。

私のフランス語は簡単な日常会話レベルでビジネスレベルには到底及ばないが、拙いなりにもフランス語で話す機会が増え日本語をあまり使わないので忘れる。
旦那は日本語を話すが語彙は一般的な日本人に比べたら少ない。
いつも彼が理解できる単語を選んで会話をするため、同じような単語ばかり繰り返し使うようになり語彙力は乏しくなる。

また、私の日本人の友人のほとんどは旦那と英語やフランス語で会話していた。
そうなると日本語を話す機会はずっと少なくなる。


今回は在外邦人を悩ませる日本語をカテゴリー分けしてみる。

熟語や慣用句

特に難しい四文字熟語などではなく、普段使いの熟語が出てこない。
「えっと」と「なんか」を連発しながら記憶の中にかろうじて残っている言葉たちを探る。
すんなり出てこないなら熟語を使わずに話したほうが速いのに、それらを忘れ去ってしまう不安に駆られて無駄に熟語や慣用句を文中に挟み込みたくなる。
小中学生レベルの四字熟語もチャンスがあればバンバンねじ込んでくる。

例:A美「あんたいっつも他力本願じゃん」
  B子「そう、だから職場で四面楚歌なんだよねー」
 A美「自業自得ー!」
 B子「きゃはは、ぐうの音も出ないわぁ」

会話の内容が稚拙でも知的レベルが上がったように聞こえるので「日本語をちゃんと話したい」という自己欲求は満たされる。
 

外来語

フランス語で生活している人にとって日本語の外来語はトリッキーだと思う。
なぜなら英語由来の単語が多いから。
最近では日本でもフランス語由来の外来語も耳にするようになったので、なおさら英語由来の外来語が出にくい。
以前は英語だったのにフランス語をよく聞くようになった代表的な単語を挙げてみよう。

英→仏
チョコレート→ショコラ
チーズ→フロマージュ
ジャム→コンフィチュール
ラズベリー→フランボワーズ
など他にもたくさん。
問題は日本語で会話しているときに『ジャム』という名前が出てこなくて『コンフィチュール』と口走ってしまったら最後、一瞬にして気取ってるやつとみなされる可能性があること。
日本でフランス語はオシャレなイメージなのでアパレルの店名とかフランス語だらけ。
帰国して改めてその多さに驚く。

f:id:heidima:20180608212445j:plain
店名『有給休暇』
そしてその下はサガンの小説『悲しみよこんにちは』ならぬ『悲しみよさようなら』と続く。


一方でフランス語よりも英語を話す機会が多い日本人はどうなるのか。
スイスにいたころ、そんな日本人の友人の家に遊びに行ったときのこと。

(部屋の中に洋楽が流れている)
私「この音楽って何?CD?それともラジオ?」
友人「え?これはレディオ」
私「……レディオ?……ラジオじゃなくて」
友人「…うん……え?」

彼女は別に徳永英明の熱狂的ファンなどではない。
ただフランス人の旦那と常に英語で会話している日本人妻。
彼女は時折あなたを異次元の世界に誘う。

感嘆詞

先日、旦那が私に唐突に言った。
「え。なんかスイス人みたいになってるじゃん」
私は何のことを言っているのか分からなかったが、どうやら私の『咄嗟の一言』はフランス語(スイス訛り)になっているらしい。
そのとき旦那が突っ込んだのは、私が床に落ちたものを勢いづけて拾うときに出た一言『オップラー(Hop-là)』だった。
日本語で言うところの『よいしょ/どっこいしょ』にあたる単語である。
10年前にこの言葉の存在を初めて知ったとき、私はその違和感に笑ったはずである。
それが今ではこの有様。


他にも自分で気づいているがよく言ってしまうのは『アイ(Aïe)』。
これは『痛い!/やっちゃった!』みたいなリアクションの言葉。
日本語では反射的なリアクションの言葉であろうが、『イタっ(痛い)!』とか『アツっ(熱い)!』とかちゃんと意味のある形容詞になるが、これはうちの旦那に言わせると日本語のおもしろポイントらしい。
確かに危機的状況でもちゃんと説明するのが真面目な日本人らしい気がする。


もう一つ自分で気づいてやめたいなと思っているのにやめられない口癖がある。
それは、相手の言ったことが聞き取れずに聞き返すときに使う言葉。
日本語で『え?』にあたる言葉だが、私は『あぁ?』と言ってしまう。

私は中学生のとき、カナダ人の英語教師デビーが『アァ?』と聞き返してくるのが怖かったのを今でも覚えている。
普段は優しく笑顔が素敵な彼女が急にチンピラみたいな口調になることが怖かった。
20年の時を経て私はすっかりデビーになってしまった。


そして私が発音がとてもフランス語らしいと感じる感嘆詞『Oh là là (オララ)』、英語で言う『Oh no(オーノー)!』のように、びっくりしたときや困ったときに出る言葉。
フランス語圏の人々はよく使うが私はまだこれには手を出していない(はず)。


自分で自覚しているのはこの程度だが、傍から聞いたらもっとおかしな日本語を話している可能性もある。

でも『ショコラ』や『フロマージュ』を耳にするようになった今日、『オップラー』が日本で市民権を得るのも難しいことではないように思える。
オップラー、なかなか可愛いじゃないか。

私がおばあちゃんになる頃には老人たちが皆『オップラー』と言うようになるのを夢見て私は堂々と使い続けることにしよう。