日本に帰国してからというもの他人と接することにやたら緊張するのだが、その原因のひとつがどうも日本人特有の「本音と建前」にある気がしてならない。
数年前に観たドイツのテレビ番組で「日本人はテレパシーが使える」と言っている人がいた。
何のこっちゃと思う人もいるかもしれないが、今日はそのことに関して私が経験したことを記録しておこうと思う。
1.母親とのテレパシー
最近実際に田舎に住む私と母が電話で交わした会話を例に挙げてみよう。
私「○○(次男)の保育園の入園が決まったから仕事探しはじめたんだよね」
母「そうなの?いつから保育園なの?」
私「8月の頭から」
母「△△(私の姉)はお盆に帰ってくるんだって」
私「そっかぁ。私たちも帰りたいけど、どうかなぁ……」
母「カボチャとトウモロコシも作ってるから」
私「……保育園は一週間とか休んでも問題ないらしいから、保育園に聞いてみるね」
母は一言も「実家に帰っておいで」とは言っていないが、彼女が帰ってきて欲しいと思っていることは私には十分すぎるほど伝わる。
本来テレパシーとは以心伝心のことだが、『日本人のテレパシー』とは言葉の裏をよんで気持ちを察することを意味しているようだ。つまり『行間を読む』ということ。
確かに私たち日本人はここにこだわりがある。あえて直接言わない。控えめが美徳。
しかし日本人の誰しもが行間を読む能力に長けているかどうかは疑問である。
私は一生懸命やろうとするが考えすぎてハズすこともあり、ただ無駄に疲れていることが多い。
話を母に戻すが、彼女は家庭菜園が趣味なので孫たちが好きな野菜を一生懸命に育ててくれていた。夏に彼らが来るのを楽しみにしながら。
それは私にとってもちろん嬉しいことだ。だが、このことについて知らされたのはこのつい先日の私からかけた電話が初めて。
確かにお盆は帰省する人が多い時期だが私は今のところ仕事もしていないので、子連れで帰ることを考えると帰省ラッシュを避けたほうがラクである。
でも彼女はぜひお盆に合わせて帰ってきて欲しいことを間接的にガンガン伝えている。
以下の【】内は母の心の声である。
①母「△△(私の姉)はお盆に帰ってくるんだって。【だからあなたたちもお盆に帰ってきたらいいじゃない】」
②母「【孫たちの大好きな】カボチャとトウモロコシも作ってるから【孫連れて帰っておいで】」
特に②は私たちの共通の認識があってこそ成り立つ会話だが、ここまで見事に『帰ってこい』と言わない母には恐れ入った。
そして彼女、電話中に自分に興味がなかったり都合が悪かったりする話題になってくると何のためらいもなく「じゃあ、切るね」とぶっこんでくる。直接的に「その話は興味がない」など決して言わないのでこの「じゃあ、切るね」は間接的なアプローチなはずなのに、相手に与えるダメージは直接言う場合よりかなり大きい。
これに関しては、彼女がそれをわかった上でわざと相手にダメージを与えるために言っているのかどうかは自分の母親なのに未だにわからない。
そう、彼女はかわいく言えば『不思議ちゃん』なのだ。
これもつい先日の話だが、彼女は電話でこんなことを言っていた。
「近所に住む奥さんで、やたらと私に親切にしてくれる人がいるんだよね。私が変わってるからかな。」
このとき私は初めて64歳になる母が自分が変わっていることを自覚していることを知った。
その人が親切にしてくれるのはあなたが変わっているからというより、未亡人で一人暮らしだからじゃないかなと言ってみたが、「他にもそんな人はいっぱいいるし」と納得がいっていないようだった。
2.男女間のテレパシー
私は今の旦那であるスイス人男性と知り合ってから約10年が経つが、知り合ってから5、6年までの間は数え切れないほどの喧嘩をした。喧嘩のほとんどは【彼がエスパーじゃない】から起きたといっても過言ではない。
私は日本人なのでテレパシーを使える。たまに失敗するけどそれでも“ほぼエスパー”なのだ。『熱々おでんニコニコ食い』はできなくたって会話の行間はちょっと読めるし、上手に読めなくとも読もうとしていることに意義がある。
一方のスイス人旦那、実は『日本人のテレパシー』については「そんなのは日本人に限らず誰にでもある。要は国民それぞれ共通認識があるということだろ」と豪語しているのだが、私はそれとはまた違うと思っている。
彼が私の気持ちを汲んでくれないせいで過去に腐るほど喧嘩を繰り返した。
日本人は思っていることをはっきり言わず、その後は“テレパシー”で情報処理をしているようなものだが、少なくとも私が知っているスイス人は思っていることをはっきり伝える人が多いし、私がやんわり3回断ったりしても懲りずに誘ってきたりする(付き合う前の旦那)。はっきりイヤだと伝えないとわかってくれない。
そしてもし彼が私のテレパシーを読み取って誘うのをやめていたら今の私たちはない。
例えば結婚する前、同棲中だった私たちのこんな会話。
彼「今夜、飲みに誘われたんだけど、飲んで帰ってもいいかなぁ?」
私「あ、そうなんだ。晩御飯作っちゃったけど、まあしょうがないね」
彼「ごめんね、あんまり遅くならないと思うから。じゃあまた後で~」
これ、帰ってきたら喧嘩のパターン。
私が機嫌悪くて彼が「え、どうしたの?」っていう。
私の「晩御飯作っちゃったけど」という一言で、「だったら飲みに行かないで帰るよ」という返事を期待してるのがわからんのかボケぇと内心思っているのにそれすら言わないで帰ってきた彼を前に黙りこくる私27歳。
今書いてて吐き気を催すほどめんどくさいヤツだった。オエー。
てかこれ日本人男子なら「じゃあ飲みに行くのやめるよ」となる人が大半なのだろうか。うーん。
女性の性格にもよるし個人差が大きそう。
それが今の私たちの会話だとこうなる。
彼「今夜、飲みに誘われてたの忘れてた!もう晩御飯作っちゃってた?ごめん!」
私「あ、そうなんだ。作ってるけど別に大丈夫だよ。行ってきなよ」
彼「作っちゃったなら帰ろうか」
私「いいよ!大丈夫、冷蔵庫に入れといて明日食べればいいんだし。行ってきな行ってきな」
これも解説すると、私は本当に思っているままを彼に伝えていて行間を読む必要なし。
もっと言うなら行間にあるとすれば(明日の晩御飯作る手間が省けるから是非帰ってくるな)となる。
日本人のテレパシー、ないほうが人生が何十倍もラクになるような気がするのは私だけだろうか。