アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

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私の早退日記

日曜日の夜、私はサザエさんシンドロームに陥っていた。
その理由は旦那が一週間出張で家を空けるから。

“ワンオペ”デビュー

私は今日から一週間、パートとして働きながら一人で家事と子供の世話をすることを強いられていた。
いつもより1時間早く起きて弁当を作り、子供を起こし着替えさせ、朝食を食べさせ、歯の仕上げ磨きをし、自分の化粧もし、怒鳴らず急かさず余裕を持って家を出るのが目標だ。

朝の余裕を生むものは前夜の準備。
今日はいつも子供たちと尋常でないテンションでじゃれ合う旦那もいないことだし、有意義な会話をしながら夕食をとり、子供たちに普段は制限しているテレビを見せご機嫌取り。
サザエさんを鑑賞する息子たちの隣で、私はシンドロームしながらカツオが『嘘も方便』を会得していることを知り、そんな小学生はちょっとイヤだわと思っていたら長男がちょうどそのタイミングで「これもう見たくない」と言ったのでテレビタイム20分足らずで終了。わかってんな息子。

その後は楽しく親子三人で有意義な会話をしながらお風呂に入り、明日は早起きだからもう寝ようと100回ぐらい言って、まだまだお風呂で遊びたがる子供たちを退出させ、次男がその辺に放尿する前に素早く紙おむつを装着し、もう明日着る服を着せてしまいたい気持ちをギリギリのところで抑えてパジャマを着せた。

あとは歯磨きを済ませ、ウグイス嬢並みに上等な発声で絵本を3冊読み、旦那には5年以上見せていないであろう、とっておきの優しい笑顔で2人の息子に私の彼らに対する愛を伝え、おやすみと言って笑顔を崩さずに舞台袖にはけた。

なんという手際の良さ。
親が2人いると余計に時間がかかるミステリーの謎解きはさておき、弁当の下準備をして、元喫煙者のせいでか何でか知らないがやたら目立ちたがる私の鼻毛ちゃん達をカットした。
前にも書いたが、旦那がいないと鏡の前にいる時間が増える。

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当日の朝

そして今朝、6時に起床。
シナリオは完璧。
あとは子供たちの気持ちをどこまで持っていけるかがカギ。

緊張のせいか変な夢を見た。
義理の両親(スイス)が私の実家(とうほぐ)に滞在しに来ていた。
私の母は、朝食にクジラの塩焼きを出した。
私は世間や国際事情に無頓着な母にちょっと憤慨。
そしてすぐに夕食の時間になり、出てきたのはイルカの塩焼きだった。
これはやりすぎだ。イルカなんて私も食べたことないのに。
おかしいことにクジラもイルカも直径が15㎝ほどの個体で、丸焼きだった。

これは夢だが、実家に初めて私の旦那(当時は彼氏/来日1年目)が来たときに、私の母が朝食に山盛りの天ぷらを出したのは紛れもない事実である。


変な夢から目覚め変な気分で息子の弁当を作る。
それが終わったので子供たちに声をかけるが起きる気配は全くなし。10時間以上ぶっ続けで寝られることが憎ら、いや、羨ましい。
こんなとき、私はしめしめと息子たちの着物(パジャマ)を剥ぎ取り寝たまま着替えさせてしまう。

そんなこんなしているうちに、息子たちが目を覚まし、まあまあな機嫌で朝食を食べ始める。

その後の記憶はほぼ無いが、汗ばみながら次男を保育園に送り、ヒーヒー言いながら長男を幼稚園に送った。
あとはファーファー言いながら自転車を駐輪場に停めて無理やり鼻呼吸しながら駅のホームまで移動し、なまはげの赤い方みたいな風貌で電車に乗る。


今朝、電車に乗った瞬間の達成感ったらない。
iPhoneのプレイリストだって最近めっきり聞かないようなやつ聞いちゃう。
ビョークだ。ハイパーバラッドだ。ブンブンだ。


職場に着くと、やっといつもの日常が訪れた感じ。
いつも通りに職場の人たちに挨拶をし、自分の席に着いてPCを起動する。
まだ汗が引かないので、下に着ているシャツにアイロンかけていないのは知っていたがセーターを脱ぐしかない。


加湿器さながらにむんむんと蒸気を発しながら仕事を開始し、しばらくたってから携帯のバイブ音が鳴っているのに気付いた。


いつもの嫌な予感。


最近の私の特技、早退


そして私は今日、また2018年ベスト・ソータイストに一歩近づいた。

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仕事開始から1時間半後、長男の幼稚園から連絡があった。
今回は発熱によるお迎え要請ではなく、息子が転んでおでこを切ったので病院へ付き添ってほしいというものだった。
旦那は遥か彼方。私しかいない。何より出血しているということで心配だった。

また毎度の如く、周りの社員の方々に深々と頭を下げる。申し訳なさでどちらかといえばつり気味な私の目は今日ヒュー・グラントくらいまで下がったはずだ。


パートの私は働かないと給料が出ない。
息子も心配だが、給料が減るのも痛いなと考える私は冷たい母親なのかなぁなんて、さっき乗ったばかりの電車に乗りながらぼんやり物思いに耽る。



息子は結局、額を4針縫うケガをしていた。
転んだ先に運悪くコンクリートの縁石のようなものがあったらしい。
幼稚園の先生たち計4名に次々に謝られた。人様の子を預かるなんて気苦労の多い仕事に違いないのだ。
いろいろな意見はあるだろうが、幼稚園や保育園で子供たちに絶対にケガをさせないなんて無理な話。しかも我が子のことは私がよくわかっている。
まっすぐ黙って歩いていたら逆にお腹でも痛いんじゃないかと心配になるような子だ。


そんな彼は病院のベッドで私を含め大人の女性3人に押さえつけられながら麻酔の注射を打たれ、泣きはしたが思ったよりも暴れなかった。
先生に額を縫われている最中も、最近彼の中で流行っているウ〇コ系の造語を言って看護婦たちを笑わせていた。
施術の最後に、おでこにちょうど切り餅サイズの分厚いガーゼを当ててくれた。

頭を打つと脳へのダメージが気になるところだが、先生が丁寧に説明してくれたのでそんなに心配はしていない。
頭痛がしたり痺れがあればこんなに元気に走り回れない。むしろ頭打った人並みにぐったりしたのは私の方だった。
昨夜からの緊張と興奮が突如心配に変わり、それも落ち着いて何だか気が抜けた。


いや、戦いはまだ終わってはいないのだ。
おでこに切り餅をつけてスヤスヤと寝ている彼を甘く見ると明日の朝に痛い目にあう。


出張から帰ったら旦那は長男の傷を見てショックを受けるに違いない。
でも傷は勲章だし、思い出だ。
私は自分の薄くなって消えそうな気配を見せる手術跡を撫でながらちょっと寂しくなったりすることさえある。
そして小さいころ姉と喧嘩して彼女にケガを負わせ、それが今になって家族で飲むときの酒の肴になる。(ごめんよお姉ちゃん!)

男の子だし、この先もっと派手にケガをすることもあるに違いない。
今日のは人生最初の記念の4針だ。

追いつけ追い越せ、大仁田厚。