アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

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年の瀬スキャンダル 消えた5万円

新年明けましておめでとうございます。

更新頻度のムラだけが自慢の我がブログへようこそ。
今年も私のダメ人間っぷりを世の中に晒していく気満々なのでよろしくお願いいたします。


いや、書きたいことは山ほどあるのだ。
毎日のように変なことが起こる私の人生。
「あ、これブログに書きたいな」
と思うことがたくさんあるのになぜか更新できないのだ。
理由は明白、私がめんどくさがりやだからである。
そんなやつはブログなんてやめちまえ!

そう自分に言いたくなるが、書ける日だって今日のようにたまにあるし、
読んでくれる方がいるので頑張れ自分。
ブログは続くよどこまでも~



さて、今日は2018年の年の暮れに我が家で起こった事件について書きたい。

その日、私は走っていた。
街の雰囲気もクリスマス&年末ムードの中、朝からリュックサックをワッサワッサいわせて走る一人の年増女。
彼女は何をそんなに急いでいたのか。
友達の結婚式のためにご祝儀の5万円を新札に交換しようと銀行へ向かっていたのである。
出勤前の限られた時間で、開店したばかりの銀行にダッシュで駆け込んだ。

両替機はすでに先客の中年男性が使用中だった。
その後ろに並ぶ私。
ただならぬ息遣いに気付いた男性は私の方を振り返る。

はぁーっ はぁーっ

走ってきたために息が切れているのだが、どうやら男性は私が(待ってるんだから早くしてよね)の溜息をお見舞いしていると勘違いした模様で、
「すいません」
と消え入りそうな声で私に頭を下げた。

いえいえ!大丈夫ですから!と言いたかったがもう肩で息をしていた私は首をちょろっと横に振るだけで精一杯だった。
待っている間に折り目のついた1万円札を5枚、財布から出しておく。

両替を終え怯えた様子でこちらを見ながら小走りで走り去る男性。

私の番だ。
両替機の前に立ち初めて両替するためにはキャッシュカードが必要なことを知った。
スイスでは仕事で両替する機会がたびたびあったが、確かにカード使ってたわ。
日本もそうだったっけと、都合のいい時だけ頭が勝手に外国かぶれになる。
そして私は駅と職場の間にあるからこの銀行に来たのだが、この銀行に口座を持っていなかった。

案内係の若い女性がいたので、窓口で新札に交換できるか聞いてみると、
交換することは可能だが手数料がかかるとのこと。

一瞬迷ったが、それならちょっと歩くが口座のある郵便局があるのでそこに行こうと思い、
女性に頭を下げて銀行を出た。


今度は郵便局に走る。
平日は毎日10時から働いていた私は家の近所の郵便局の窓口は時間的に利用できなかった。
職場の最寄り駅の近くの郵便局なら朝寄っても勤務時間に間に合う。
またゼーゼーいいながら郵便局にたどり着き、窓口の男性に新札に交換してほしい旨を伝えると信じられない返事が。

「この辺りの地域の郵便局では新札に交換するサービスは行っておりません」

うちの近所の郵便局はやってくれていた。
なぜだ。
そしてなぜご祝儀は新札でなければならないんだ。
日本はなんてめんどくさい国なんだ。
例のごとく頭が勝手に外国人風になる。

ここは本物の外国人に愚痴を聞いてもらうしかない。

郵便局を出て職場に向かいながらスイス人夫に電話をかけ、日本のめんどくささを愚痴る。
私が時間が無いのに走って銀行と郵便局に行き、結局両替ができなかったなんて頭にくるわ。
外国人モードの私はブロークンなフランス語で小走りしながらまくしたてる。
お札が新しくなくたって価値は変わらないのに。
キィー!
私はもう今日のでウンザリだから、明日あなたが口座持ってる銀行に行って両替してくれるかしら?
キィー!

マシンガンのようにイライラをぶっ放す私を相手に夫は「NO」と言えるわけがなかった。




そして職場について何事もなかったかのように楽しく就業し、終業時刻を迎える。


電車に乗っていつも通り家路につく。
そのときふとネットで見た情報が頭に浮かんだ。
コンビニのATMは新札が出てくる可能性が高いとか。。。

ふんふん。
別に時間もあるし、一度試してみようかな。
リュックサックから財布を取り出し、5万円を出そうとすると、

無い。

無い!


財布を何度も目を凝らして見ても朝入っていた5万円は無かった。

きっと焦っていたからリュックサックにそのまま放り込んだのかもしれない。
リュックサックの隅々まで探す。

無い。

嘘でしょ。
あんなに走って焦っていたからどこかで落としてしまったのだろうか。
でも銀行で5万円を出したところまでは覚えているが、その後5万円を見た記憶はない。
銀行で出して、また財布にしまってそれをリュックサックに入れて郵便局に向かったはず。
郵便局では財布を出していないはず。

もうイライラしていたのも手伝って記憶が曖昧だ。

泣きそうな顔で帰宅。夫に5万円をなくしたことを告げる。
いつもは言いたくない「ごめん」という言葉は今夜ばかりは惜しげもなく言いまくった。

何を隠そう、私の夫は非常におっちょこちょいで、しょっちゅう失態をしては私にチクチク責められている。
忘れ物も非常に多く、過去にATMで引き出したお金を取り忘れたことが2度あった。
私は泣くほど悲しんで「なんで」というミスってしまった人には本当に答えようもない質問を繰り返した。
私は本当に意地が悪いのである。

そんな私に対し、夫は冷静だ。

「バッグをちゃんと見た?ポケットも?」

人間ができている夫は頭ごなしに責めたり決してしない。
リュックサックの中身をすべて出し、財布の中身もすべて出し、隅々まで確認するが出てこない。
出てこないが、夫は怒らない。そして、

「今まで僕が無駄にしたお金は5万円よりも多いから」と優しく微笑んだ。
やべ。書いてて泣きそうだ。めちゃくちゃいいやつじゃん。おっちょこちょいすぎるけど。

そして彼は続けた。

「警察に電話した?」

私はしていなかった。
財布を落としたならまだしも、ナマの、裸んぼうの1万円札を5枚まとめて落としたと言っても
万が一見つかったとしても名前が書いている訳でもないし、私のお金だと証明できる術がない。
夫はダメもとでも連絡しておくことを勧めた。

しょんぼりしながら職場の近くの交番に連絡すると市の警察署につながった。
今のところ5万円を拾ったという届はないが、
念のために明日の朝にでも遺失物届を出しておいたほうがいいと言う。


このまま5万円が見つからなかったら貧乏性な私は友達の結婚を心から祝えないと思った。
5万円をなくし、5万円をご祝儀として包んだら結婚式の出費は10万円。
私の月のパート代の半分以上だ。
もうやさぐれた母は子供の世話も手につかない。

もう落としてしまったものはしょうがない。
ただこの落としてしまった事実を頭の中から消し去りたい。
最初からこの5万円が無かったことになればいいのに。

それか拾ってくれた人のことを考えよう。
困っているホームレスの人が拾ってこの5万円で美味しいものを食べ、あったかい布団で寝たかもしれない。
そう思うと親切した気になって気持ちが晴れた。
いや、晴れなかったけど、貪欲な小金持ちのおばさんに拾われて高級ワインに使われるより、
ヤンキーに拾われてパチンコに使われるよりずっといい。

そんなことを考えながらウジウジしていると、夫がもう子供の世話も食事の片づけもやるから寝たらと言った。

ショックでウジウジから抜け出せない私は言われるがままに寝床に着いたが、
布団の中でも頭は5万円のことでいっぱいで、全く寝付けそうにない。

なぜだ。どうやったら5万円をなくすことができるのか。
もう5万円なんて戻ってこなくてもいいから、どうやって人は5万円をなくすことができるのか、
神様!それを見せてください!

都合のいいときだけ神頼みだ。

銀行で案内係の女性と話したときは5万円を手に持っていた。
それが最後の確かな記憶だった。
確かと言っても私の「確か」は疑わしい。
もしかして最初から5万円なんて持っていなかったのでは!?
しかし郵便局で5万円を引き出した時の明細書は存在した。
それだけが真実だった。


布団の中でいろいろ考えた。
友達の結婚式で笑顔を作る練習をしておこう。
出てくるご飯は残さず食べよう。
お酒はできるだけたくさん飲もう。
何なら飲んで飲んで、そこで5万円紛失事件の記憶が永遠になくなるまで飲み明かしたらいいじゃないか。


そんなことを考えながらどうにか眠りに落ちたらしく、目が覚めた時は朝だった。


夫と子供に見送られ、交番に寄るために早めに家を出る。
すっかり通い慣れた駅なのに交番には近寄ったことすらなかった。
中には若い警察官が3人も私を出迎えてくれた。

「すいません、落とし物をしたので遺失物の届出をしたいのですが」
警察官の一人がペンと一枚の用紙を出した。
何を失くしたのかと聞かれ、現金5万円だと答える。
警官「財布ですか?」
私「いいえ、現金だけなんです」
警官「封筒などに入れていたんですか?」
私「いいえ、裸です。そのまんまです」

警察官3人の顔が一斉に「あちゃー」となったのを私は見逃さなかった。

だよね。

私は用紙に記入を続けるが落とした場所を書く欄で手が止まる。
どこで落としたかわからないからである。

警察官「じゃあここの駅名を書いといてください」
私「えっと・・・」また手が止まる。もう失望した私は漢字が出てこない。あの鳥の名前、いつも書いてるのに。
警察官「あ、平仮名でいいすよ(あちゃー)」


もう泣いてもいいですか。
5万円は落とすわ、漢字も書けないわ、私この先大丈夫でしょうか。

もう開き直って平仮名で大きく駅名を書き、念のために警察官に聞いてみる。

私「ちなみに、今までそのまんまの状態で落とした現金が返ってきた前例はあるんでしょうか?」

警官「んーーー、聞いたことないかな。難しいと思いますねぇ(微笑)」

ですよねぇー。


もう届けたのであとは待つのみ。
念のために昨日の朝に荒い息で訪れた銀行に寄ってみよう。

銀行に入ると、そこには昨日と同じ両替機。
そして昨日とは違う案内係の女性がいた。

私は彼女に昨日の朝にここに来てとった行動を細かく説明した。
昨日ここにいなかった彼女はふんふんと頷きながら私の話を聞き、
確認するのでお待ちくださいと言うと窓口の奥へ行った。
他の女性に私の話を伝えているように見える。

3分くらい待っただろうか。
同じ女性がもう一度私のところまで来て、
「申し訳ございませんがもうしばらくお待ちいただけますか?」
と言いに来た。
承諾したものの、仕事の時間も迫っておりあと何分待たせられるのか少し不安になった。
まさか昨日の朝に勤務していたスタッフが出勤するまで待たせるつもりだろうか。
落とし物の5万円が無かったのなら早く解放してほしい。

そう思って時計とにらめっこしていると、窓口から他の女性スタッフが私を呼んだ。
さっきの案内係の女性よりもベテランな雰囲気の女性だった。


女性「お客様、実は昨日5万円の落とし物がありました」


私(うぉぉぉおおおおおおーーーーーーー!!!!!)

顔の表情が緩むのを堪えられない。でもどうなる!?

彼女が言うには、床に5万円がパラっと散乱していたのを勤務していたスタッフが見つけたということだった。
時間帯と状況から恐らくそれは私が落とした5万円に間違いないだろうと。
彼女は私の身分証明書のコピーと引き換えにその5万円を返してくれると言う。
この銀行に口座も持っていないおバカで哀れなこの私に。

そして嘘みたいに5万円が窓口の水色のトレーに置かれた。
私が落としたシワのついたお札だ。

ちょっと早いクリスマスの奇跡が起こったのだ。

私は爆発している喜びを一生懸命に隠した。
私の中の私はめちゃくちゃ飛び上がって喜びの雄叫びを上げている。
でも窓口の女性の前では照れたような笑みを浮かべながら何度も頭を下げて礼を言った。
そのまま窓口で痛くも痒くもない300円ちょっとの手数料を払って5万円を新札に変えて銀行を出た。


足取りは軽い。
街の色はいつもよりも鮮やか。
生まれ変わったかのような実に晴れ晴れとした気分。

こんなに機嫌がいい自分はここ数年現れなかった。

今なら他人に足を踏まれたって、頭から水をぶっかけられたって、顔に鼻くそをつけられたって怒らない。


そんな状態でさっき交番で手続きした紛失物の届出を取り消しに行った。

さっきと同じ警察官がいる。
銀行でお金を見つけたことを伝えると、「よかったっすね!」と言ってくれた。
ホントだよお巡りさん!やった!やったーーーー!



しかし気になるのはどうやって5万円を床に「パラっと」落としたのかである。
銀行に防犯カメラがあるおかげで他人が拾って持ち逃げする事態は避けられたのだろうから、それは私にとって不幸中の幸いだった。
そしてその防犯カメラに写っているに違いない哀れな自分の姿を見てみたいが残念ながら不可能。

きっと財布に入れるときに財布ではなく"宙に"入れたんだろう。
それくらいしか考えられない。


夫のおっちょこちょい度を責めすぎて罰が当たったんだ。
そう思ったので2019年は他人に優しく、自分にも優しく生きていこうと誓ったのであった。

おかげで友人の結婚式は心から祝福できたし楽しめた。
素晴らしい式だったため、帰りの電車の記憶はない。


そして年は明け今日もまた、午後に書留で送った履歴書の記載事項に誤りがあったことがついさっき判明したので
明日は朝から「送った郵便物を止める」という予定が入った。


経験は財産ですから。