アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

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息子の転校

引っ越しを機に息子が転校することになった。
とはいっても引っ越し先は前のアパートから徒歩10分の距離のため、
転校先は隣の学区の小学校。
すでに一緒に習い事をしている友達や幼稚園でクラスメイトだった子が数人いたり、あまり心配はしていなかった。

登校初日の始業式の日から友達と一緒に行かせるつもりでいたが、
事前に転入手続きに来た際に、対応してくれた先生から「できれば初日だけは一緒に登校してほしい」と言われた。
始業式は付き添わずに送り届けるだけでOKとのことだったので、一緒に登校することにした。

そして当日。
息子は緊張した様子もなくセカオワのhabitの鼻歌を歌いながら学校への道のりを歩く。
そんな息子と学校へ到着すると「転入生ですか?」と先生らしき人物に声を掛けられて
登校する生徒がワチャワチャしている校庭を抜けて校舎内の図書室へ案内された。

そこにいた転入生担当らしき先生の話によると、親には始業式が終わるまで付き添っていただけるとありがたいと言う。
いや、先日の転入手続きの際は違う先生に送ったら帰ってOKと言われたんですけどー
と喉まで上がってきた言葉が喉ぼとけで引っかかってるタイミングで隣にいた別の転入生のお母さんが
「え、うち下の子の準備があるんで…途中で退出してもいいですか?」って言ってて(だよねだよねー!)となってたら、
先生が、「大丈夫です。ただ、始業式の最後に転入生の紹介があって、壇上に上がって自己紹介してもらいますので…よろしくお願いします」と言った。
いや、そんな息子の晴れ舞台を見逃すわけにいかんだろ。
しかも、ランドセル以外にズタボロの防災頭巾も持たせてる息子をこのまま壇上に上がらせるわけにはいかない。
ズタボロ防災頭巾のせいで初日から笑い者にされたなんてエピソードを後から息子に聞かされたりしたら
やるせない。
私は荷物持ちとして残るしかない。
先生たちよ。なんでそういう大事なこと前もって教えてくれないの。

始業式は校庭で行われるとのことで、転入生と親たちも先生に引率されて生徒がガヤガヤしている校庭へ移動した。
転入生たちは学年もバラバラだが、学年ごとに並ぶ生徒たちに混ざらず、端にいた5年生の列の隣に1列に並ばされた。

校庭の隅っこで職場にちょっと遅れると連絡すると間もなく、始業式が始まった。

始まった。よね?え、なにこれ。なんでずっとガヤガヤしてんの。

前の学校では、運動会等の行事で校庭で進行役の先生がマイクで話し始めると
談笑していた生徒たちも数秒のうちに静かになっていた。
校長先生の長ったらしい話にもきちんと付き合い、特に低学年は校長先生がおはようの挨拶をすれば「おはよーございます!!」だし、
話の途中で「…してください」等と言えば「はい!!」だったのに。
同じ市内の小学生なのにこれほどまでに違うのか・・・。ガヤガヤガヤ。

そして全体的にガヤつく中、隣の5年生の列の中に明らかに雰囲気の違う3人組の男子がいた。
おしゃべりを止めないとかじゃなく、もう列をなしていない。
前へ後ろへ歩き回って、ふざけたことをしてゲラゲラ笑っている。
そして周囲の子たちもそれを見てみぬふりという訳でもなく、完全スルー。
きっと彼らはいつもこんな調子だからなのだろう。

私も日本の田舎で30年前に小学生をしていたが、こんな雰囲気の子たちは小学生にはいなかった。
中学生になるといわゆる不良グループみたいなのがいたけれど、
いま私の目前でふざけているのは小学校5年生だ!
私の頭の中で聞き覚えのある曲のイントロが再生された。
チャラッチャッチャッチャチャーラ
チャラッチャッチャッチャ チャラララ ドン


ちっちゃなころから悪ガキで 15で不良と呼ばれたよ


だったよね昭和は。15だったよ。
でもこの子達はまだ10だよ。不良と呼ばれるのに15までかからんだろう。
髪の毛こそ染めてなかったけど、いや、そういう私の息子は茶髪だからややこしいが、
令和の小学生女子はインナーカラーとかしてるのもついでに目の当たりにしたんだけどさ。
不良の定義ってなんだ。

横目で彼らをチラチラ観察しながら始業式はどんどん進み、担任紹介が始まった。
教頭が、気持ちガヤガヤのおさまった生徒たちを前に順番に発表していく。
「〇年〇組、○○先生です」

発表後に、キャー!とかイェーイ!とか派手なリアクションや歓声が上がる先生もいれば、
特にリアクションがない先生もいる。
一番酷なのは、新任で今日初めて生徒の前に立った先生たち。
彼らの名前が担任として発表されると、「誰やねん!!!」と叫ぶ声が聞こえた。

例の3人組のいるクラスの担任はギャルっぽい雰囲気の30代くらいに見える女教師。
生徒からのなかなか良いリアクションに本人もニッコニコ。
だか、相変わらずふざけ続ける3人に「最初が肝心‼︎」とドスの効いた声でピシャリ。
3人もそれに驚いたか赤面して整列した。
なんだ、まだまだ素直なところがあるじゃないか。

しかし、なんで全校生徒が集まる前で担任を口頭で発表する必要があろうか。
書面で貼りだしたらよいではないか。


そしていよいよ転入生紹介の時間がやってきた。
我が子のズタボロ防災頭巾を預かり、耳元で、「大きな声でゆっくりね」とエールを囁き送り出した。

5人ほどいる転入生のなかで我が子の登壇は一番最後。
髪の毛が茶色いことにより、例の3人組から目を付けられやしまいか。

1人目から4人目まで、皆同じような調子で学年と名前を言い、「よろしくお願いします!」と言って礼をした。
生徒たちはまばらな拍手をするくらいで、リアクションはあまりなし。
ここのコーナーは全員が「誰やねん」なはずなのに、その叫びは聞こえなかった。
我が子も前の子たちに続き自己紹介を終えた。
「誰やねん」も、茶髪のザワツキも私には確認できなかった。

始業式が終了し、私はズタボロ防災頭巾を息子に託し、担任の先生に挨拶をして急いで職場に向かった。

帰宅後、息子に始業式の自己紹介、どうだった?と聞いてみると、
名前を呼んでくれた旧友がいたとのこと。嬉しくて泣けるぜ。

そんな息子は始業式以降、毎日楽しそうに学校に通っている。
学校はどうか、髪の色でからかってくる子供はいないかと聞くと、
「僕はクラスで人気がありそうだ」とのこと。
なぜそう感じるのか?と聞くと
「僕は優しいからかな」とのこと。

この質疑応答のキャッチボールには違和感を感じるが、
まだまだ3年生。
自己肯定感が高いことは最強なので良しとする。